彼がこの穴蔵の中にこしらえた研究室に、閉じ込められて何年が経ったのだろう。
生まれた当時まだ名前もなかった彼は、シーカー族の族長に忌み子だと事情を知る人々にいないものとして扱われ、こことはまた別のきらびやかとした城の中、薄暗い地下室に閉じ込められていた。外の状況が分からないなりに、永い眠りから解き放たれた厄災の齎す甚大な被害は恐ろしいものなのだろうと感じていた。
災厄を目前として、『ゼルダ』を冠する姫君が能力を発揮しないのはその出自故なのではないかと、まことしやかに囁かれているのも知っていた。そういった類の彼に関する不穏な噂を仕入れては彼に振り撒いていくのが、存在すら隠された彼の世話役に不運にも任命された女の趣味と言っても過言ではない。すっかり人間としての感情を失った彼が人形のようにその噂を聞き流すのに、何度舌打ちされたのか、彼の知るところではない。
特にすることもなく、伸ばしっぱなしの髪の毛を垂らしてぼうっと宙を眺めていれば、金色の髪をふんわりと編み込んだ姫様がたまに訪れては『お兄様』と呼び掛けて、外の話をしてくれる。彼女にとって自分は『何者』なのだろうかと悩む時期もあったが、彼にとっては唯一の光だった。
成長するうちに世話役もほとんど来ることはなくなり、姫様以外から彼に与えられる情報がなかったから、起こりうる厄災が余計に恐ろしいものだと思ってしまったのかもしれない。その頃の彼の感情のほとんどは、姫様のものだったと言っても過言ではない。
彼にとって、唯一絶対に大切なものは姫様で、その光を失いたくないということだけが心を占めることになる。王が臣下を宥め、抑えつけ、彼の扱いを『忌み子』ではなくもっと違うものとして扱うことが出来たなら、彼の人格形成ももっと違うものになったに違いない。
忌み子は何処にもいられない。
戦乱に乗じて逃げ出した彼――それも姫様からもしものことがあればそうするように指示されてのことだったのだが――を保護したのがイーガ団を名乗る組織だったのは、果たして幸運だったのか。それすらも彼にはわからない。王家にもシーカー族にも蔑ろにされた彼に同情し、イーガ団の総長は役割を与えた。名もない彼が、初めて名前を得る。
ある程度成長した頃、彼はやはり『忌み子』だったのだと体現するかのように、一切の成長や発達を止めた不老不死を冠する彼に、裏の総長としてこの組織を見守ってほしいと。長という意味を込めたシークという名は、王家に生まれ隠された男児に与えられる名前なのだと知ったのは、名付けた彼女が死んでからしばらくした後だ。
シークを拾った女は、何を何処まで把握していたのだろうか。確かめる術はもう無い。
砂漠の果てに存在するイーガ団の隠れ家の中、最奥にある総長部屋の隠し扉を更に抜けた先は大きな土地が広がっている。大昔の災厄で空いた大きな穴の中、特別な呪文を唱えれば『彼』の『隠れ家』へひとっ飛びに来られるのを、あたしが成人した折に教えてもらった。
初めてお目にかかった時、『彼』は鬱陶し気にあたしの方へ顔を向けて、赤い虹彩を縁取る目元をそっと細めたのを覚えている。美しい金色の髪を邪魔にならないように三つ編みに結って後ろに流している姿は最高に涼し気に見えたし、馬鹿みたいにバナナ好きのむさくるしいやつらにばっかり囲まれてるあたしとって、少々細身の彼は王子様のように見えたわけ。ね、わかるでしょ?
ここへは毎日、きっちり三度訪れている。食事の時間だ。あたしと兄が交互で担当していたのだけれど、兄が怪我をして他人の面倒を見られなくなってしまったので、もはやあたし専用のオシゴトとなってしまった。嬉しいことに――兄の怪我を喜ぶわけじゃないけれど――あたしが毎日、三度来ることを許されるのはこうなってからだ。
「シーク様。夕餉のお時間ですよ」
「……ナエ」
シーク様はゆっくりと振り向きがてら、あたしの名を口に乗せた。それに特に意味はないのだろうが、コーガではなくまたお前なのかと言われたような気になって、何となく気に入らない。あたしはテーブルの上に食事を置くと、肩をすくめてシーク様に告げる。
「コーガ兄はもうダメね、完全に腰がイっちゃってる」
先日、百年の眠りから目覚めたという勇者と戦った年の離れた兄が、シーク様の隠れ家のある穴に自業自得で落ちてから、数日が経つ。怪我はその時のもので、その他の外傷自体は如何ってことなかったんだけれど、ぎっくり腰がひどい。一命を取り留めたのは、厄災が起きて以降――とはいっても、その前からずっと研究していたのかもしれない。幼かった頃のあたしが彼について把握していたことなんてほとんどないのだから――様々な研究を独自に行なっていたシーク様のお陰で、本当は命に別状はないのだけれど、コーガ兄は総長としてはもう表に立てないだろう。面子の問題もある。なのに、兄は頑ななのだ。
ベッドの上で転がっているのも何をするのにも腰が痛いらしく、それは無様な有様なのにね。何度も言うが、とてもじゃないけど部下には見せられまい。総長思いの団員たちはせっせと勇者を殺そうと各地に出向しているけれど、返り討ちにされるのがオチだろう。今後のことを考えると、あんまり備蓄減らさないでほしいんだけど。こうなってきたら、イーガ団の動き方も改めて考える必要がある。
大体、あたし達は王家に敵対を続けてきたし、シーカー族のことを許すつもりはないけれど、それと厄災側に付くのはまた話が違うと思うのね。というのは、シーク様からいろいろ教えてもらって自分で考えたことなのだけれど。ウチの団員達も、勇者にやられた数より、魔物にやられた方が多いのだ。それは誰だって知っている。シーク様以外のイーガ団に学がないから、どうしていいのかが分からないだけで。
「そもそも、もう下っ腹も出ていたし、引退時期だったのよ。早くあたしに譲ればよかったのに」
あたしを頼りないと思ったのかなんなのか、コーガ兄は頑なに総長の座に拘った。あたしだって、もううまくやれる自信はあるのに。腹違い故に年が離れているからって、もうあたしも立派な成人なのよ。今この時も災厄を抑えているというゼルダ姫の百年前の年齢にだってほとんど近い。それに総長が女の時代だって、あるにはあるのよ。永い年月を生きるシーク様がそれを教えてくれた。
永い年月――彼は実質何歳になるのだろうか? シーク様はとても不思議な人だ。髪も爪も短いまま適切な長さで伸びないし、栄養を必要とすることはなさそうなのだけれど、食しても問題がないからせめてまだ人間的な生活を営んでもらうために、あたしたち兄妹のどちらかが必ず三食、食事を運んでいる。いつも彼はあまり良い顔をしないのだけれど、出てきたものは素直に口にするので、許すとしましょう。
「彼は、お前が心配だったんだろうよ。今はまた、再び戦乱の時代になろうとしているから」
「だからこそ、よ。力の衰えたコーガ兄が勇者を探すくらいなら、あたしが捕らえた方が可能性は高いと思うけれど?」
「一族の使命と、個人の感情の起伏は違うから」
シーク様が嫌そうに食事をしながらそう言ったので、あたしはおもわず笑ってしまった。彼はますます嫌そうな顔をする。シーク様の表情が崩れるのを見れるなんて、滅多にあることじゃないので嬉しくなって、くすくす笑いが止まらない。
なんだかんだコーガ兄と同じで、この人もあたしを妹のように甘やかそうとする節はあるけれど、彼が何らかのためにあたしの犠牲が必要ならあっさりと命を刈り取るに違いないのに。シーク様は使命の人。あたしは感情の人。そんなの誰に聞いたってそう答えると分かり切ってる。誰にって言っても、シーク様の存在を知っているのはあたしとコーガ兄だけなんだけれど。
「感情の起伏? あなたがそれを言うの?」
「お前はそれに振り回され過ぎているけど、僕にもないわけじゃないんだよ」
「たとえば?」
「……兄として、妹の助けになりたい、とかね」
シーク様は少しの沈黙の後、息を吐き出すように、喉を震わせずに囁いた。
実をいうとあたしはこの時、シーク様があたしを煩わしく思って煙に巻こうとしたのだと思った。だが、それにしては真剣な表情だったと思い返すのは随分後になってから。
何故ならあたしはシーク様がここで何かの研究をしていて、イーガ団は目覚めた勇者を捕らえるべく追いかけていることは、総長の血筋故に知っていたけれど、シーク様がここに留まる理由を知らなかったから。
シーク様の言うことはあたしの冗談の延長だと思い込んで『シーク様の妹なんて、もうとうの昔に死んでしまってるんじゃないの』なんて言おうとしたのを許さないように、彼は手早く食事を終える。あっという間にあたしに背を向けて、研究用の机に戻ってしまう。
そうなってしまえば、あたしはもう彼に口出しできない。シーク様が鬱陶しがりながらもあたしの戯れに付き合ってくれるのは、食事の時間の時だけなのだ。あとはあたしがいくら構って欲しがっても振り向くことすらしてくれない。
「コーガは愚かだけど、お前を守りたいと思ってるはずだよ」
「でも!」
「それに、お前が総長になってしまったら、ここへは誰が来るの」
シーク様は強い口調で兄の気持ちを代弁し、とどめとばかりにあたしの反論を完全に封じてしまった。そして、それ以後はいつも通りこちらを向いてくれることはなかった。
本格的にコーガ兄が起き上がれなくなってから幾月が経ち、勇者の動きも終盤に差し掛かりつつあったとみて、ようやく兄は引退を表明した。それまでも事実上の引退であったのはイーガ団全体で把握していたし、あたしが次代の総長として後を継ぐということは自明のことだったので、滞りなく引継ぎが出来たことは喜ばしく思うべきだろう。
「……それで、何が不満なんだい」
いつもは機会を逃さないよう、ここぞとばかりに動くのを止めない口が、動こうとしないのを見て、シーク様が声を掛けてきた。食事を持ってきた挨拶をしたっきりむっつりだったら、流石のシーク様もあたしの感情の機敏が分かるらしい。意外だったのは、それを気にして問いかけてくるところだった。ある意味、ここは何も尋ねられない安全な場所だったから感情を大っぴらに出していたというのに、それには素直に驚いた。
「名目上の総長が、こんなにつらいと思わなかったわ」
「晴れてコーガが引退したんだから、ナエ、総長はお前だろう?」
「いいえ。執務も今まではあたしがやっていたんだし、役職の名前が変わったところで、人々からの尊敬を奪うことなんてできないのよ」
コーガ兄はあれでも慕われていた。それを知らなかったとはあたしも言わないけれど、こんなに皆から「コーガ様ならどう思われますかね?」と言われるとは思わなかったのだ。
「あたし、ちょっと甘く見てたみたい」
「最初はそんなものだと思うけれどね、コーガの時だってそうだったよ。むしろ、コーガの時の方がもっと大変そうだったよ。先代の権力が強くてね」
「でないと、何人も妾を囲って、子ども拵えたりしないわよね」
「その割には、子どもが二人というのは、もしかすると先代は身体の生殖機能に異常があったのかもしれないな。イーガ団は団員同士での血縁関係が強いから、理論上は在り得ることではある……」
なんだかあたしの分からない研究の話へ流れてしまったけれど、シーク様はこれできっとあたしを慰めてくれているのだ。それがなんだかおかしい。シーク様に慰められるって、相当なことじゃない?
いつも通りの自分でいたかったのに、自分だけでなんとかできると思ったのにな。ここへ逃げ込んできてしまった自分を恥じる。食事中なのにすっかり自分の理論の中に嵌まっていえるシーク様はあたしのことなんてさっぱりどこか忘れ去ったように虚空を見ている。何かを見つけた時とか、理論の検証をしている時とか、シーク様はそうなることが度々あった。そんなシーク様に声を掛けても返事が返ってこないことは多々あるけれど「ねぇ、シーク様」今回はあたしの呼びかけに気が付いたようで、赤い瞳に光を戻してこちらを見る。左目はすっかり伸びたままの前髪が覆い隠しているが、きっと同じような色であたしを見ているのだろう。
「どうした?」
「シーク様も、同じようなこと、ありました?」
「……そうだね、」
シーク様はなんだか複雑な面持ちのまま、あたしを見据える。なんて言おうか悩んでいるようだった。そんなシーク様も珍しい。だって、シーク様は言いたくないことは言わないし、言うべきことはきっぱりと口にするから。逡巡した後、シーク様はそっと目を瞑って、口を開く。
「僕がその昔、王族の一員だった頃にね、あったよ」
その言葉をシーク様がどんな想いで口に乗せたのか、この頃のあたしには知る由もなかった。感情を悟らせないように瞳は閉じられたままだったし、声色は全く温度の籠っていない平坦なものだった。あたしが反応に困っているのを察したように、シーク様は瞑った時と同じようにゆっくりと目を開き、柔らかく細めたままの目で安心させるように笑いかける。
「なんて、冗談」
「……」
「だって、ずっとここにいる僕が、そんな機会に恵まれることなんて、あるわけないだろう?」
意地悪なことを言うから、揶揄ってみたんだ。外の人間のように、上手くできたかい? なんて続けて言うから、馬鹿なあたしはすっかり信じ切って「ひどい! 完全に騙されちゃった!」とあたしはわめいたのね。軽い気持ちで彼があたしを騙すために言った言葉じゃなかったのは、そう、お察しの通り。それでも冗談と信じ込んだあたしはこんなことを――傷付けるつもりじゃなかったのは、分かってもらえると思うんだけど――言ってしまうの。
「でも、シーク様って王子様みたいってずっと思ってたの」
不意打ちを食らった彼の、その時の表情をあたしは一生忘れないだろう。
シーク様の献身なる研究成果により、コーガ兄の様態が上向いた。杖を使えば歩けるし、シーク様へのお食事も運べる。そうとなればあたしはアジトを兄に任せて、外を見て回ろうかと思った。
まだ兄と違って奥義を使いこなせないけれど、一般の団員よりかは格段に戦闘能力が高い自負はある。各地に放っている諜報部員の報告では、勇者は着実に神獣の解放や祠の攻略を進めており、強さを増しているという。
コーガ兄が負けてしまった今、彼を止めるならあたしが出る必要があるだろう。アジトの攻略を済ませたと思っている彼をここで待っていても、意味がない。そう判断してあたしは勇者を追うことにした。
「行くんだ?」
「ええ。シーク様は止めてくれますか?」
「お前がそう判断したなら、止めないよ」
「そうですか」
そうだと思っていました、と言いたい気持ちをこらえて、ごきげんようと挨拶をする。きっと勇者と鉢合わせをしたら、もうあたしは無事じゃいられないだろうこともお互い分かっている。
茶番の様だと思った。
「お前はもう少し賢いかと思っていた」
「あなたのお陰で、少しは知恵がつきました。シーク様」
最後に名前を囁いて、あたしは背中を彼に背を向ける。あなたのお陰であたしは死にに行くと分かっていて、勇者を追うのよ。それでもあたしはあなたのことを愛おしく思う気持ちは変わらないつもり。
(あたしの素敵な王子様――ありがとう)
何に対してか心の中でお礼を言って、あたしは出立する。シーク様は王族に何か思うところを抱えているようだけれど、泥にまみれたイーガ団でのあたしの人生の中で、王子様然としたシーク様だけがキラキラとした非現実だった。
これでもあたしだって女なのよ、そういう男に憧れても良いでしょう? 相手が人間離れした、不老不死の存在だったとしても。
最近、勇者は中央ハイラルの方へよく出没するらしい。
我らがイーガ団の崇め奉るあの厄災が乗っ取ったガーディアンからの被害を未然に抑えるためと聞いているが、本当のところはどうか知らない。
北東のアッカレの方だったらどうしようかと思っていたところだったので、少しほっとした。南東にある砂漠地帯からは遠い。それから贅沢かもしれないが、寒いところも暑いところも勘弁願いたい。
勇者はどこにいるのか、そう都合良く会えないだろうと思いながらも、うろついていると迂闊にも歩兵型のガーディアンに見つかってしまった。あたし達はあんたらの味方のつもりだっつーの! と思いながらも、人間相手には区別も容赦もなく襲い掛かってくる怪物だ。後ろから狙い打たれるビームを避けつつ、どうにか、射程から外れようと動くもうまくいかない。これだから、歩兵型は嫌なんだ! しかもまともにやりあっても、分が悪いし、得るものもない。
(どうしようか……)
頭の片隅で逃げる算段を立てていると「危ない!」若い男の声が聞こえて、あたしは間一髪で転がって奴の射程から逃れられた。あたしの後に来た青い服をまとった男は光る剣を片手にそのままガーディアンの足を削り落とし、動けなくなった本体に何発か斬撃を入れる。
(強い!)
あたしが分の悪いと思ったガーディアンを相手取り、いともあっさり勝利してしまった男は、その場に散ったガーディアンの部品を集めてから、座り込んだままのあたしの方へ寄ってきた。
「大丈夫? 怪我はないようだけど」
「ええ、ありがとう。あなたは――」
「俺も平気。かすり傷はちょっとあるけど、こんなのしょっちゅうさ」
薄い青色の服が印象的な金髪の男の正体は、きっとあたしの想像通りだろう。だから命の恩人だけど、絶対に敵わないと分かっていても、あたしは立たないといけない。草が茂る大地に落とした腰を上げようとするのは気力のいる動作だったけれど、気持ちの問題だ。ようやく立ち上がって「勇者リンク。助けてもらったことには礼を言う。が、ここでまみえたからには野放しにしておけない」イーガ団の衣装に身を包み、愛用の短剣を取り出す。
「いざ、勝負!」
「あーそういうの、いいから」
あたしは真剣だったのに、リンクは心底めんどくさそうにあたしを見て、手を振った。先ほど駆け寄ってきたときもそういえば、部品を集めてからこちらに駆け寄ってきた。聞いていた情報だといわゆる正義の味方だったのに、本当のところはそうじゃないのかもしれない。勇者と思しき男は本当に戦う気は無いようで、剣を鞘にしまうと、あたしを指さした。
「足、震えてるよ。そんなんじゃ戦えないって」
「なっ」
本当のことだった。自覚はあまりなかったけど、足だけじゃない。短剣を持つ腕も痙攣が止まらない。
「実践、初めて?」
「なんでそれが」
「人を殺したことのない目をしてる」
勇者は澄んだ瞳でそう笑って言う。あたしのことなんて取るに取らない相手なんだと思っているのがすごく分かる。それ故に、彼の言うことは事実なのだと気が付いた。きっと、あたしよりコーガ兄の方が信頼されているのも、そこから来ているのかもしれない。まだまだ未熟で経験が甘い。もっと言うならば、あたしには人を殺す覚悟がなかった。と今更になって思い当たる。あたしよりも、例えば勇者が弱かったとして、殺せたかというとそうではない。
「人殺しなんて、しない方が本当は良いんだけどね」
「こんな世の中に誰がしたんでしょうね」
「さあ。しいて言うなら、この世界で起きることは何もかもが必然ってことだよ」
勇者はそう言ってあたしの隣に座り込む。「あ、俺、リンク」「あたしはナエ」何故だかお互い自己紹介する羽目になって、おかしいったら。
「そういえばなんでイーガ団って、バナナ落とすの?」
「知らない!」
あたしがここで必要な覚悟を持てずに、王家に連なる勇者と慣れあってしまったことで起こる悲劇についても、今のあたしは知らないまま、無邪気に笑っていられるのだった。