リンクが全てを終わらせてくれた時、わたくしの中に溢れたのは安堵だった。
彼がもしかしたら、全てを思い出していないかもしれない。それでも、彼はわたくし達の期待に応えてやってくれた。わたくしの百年に報いてくれた。
――リンク、わたくしを覚えていますか?
その問いの答えなんて、本当はなんだって良かったのだ。覚えていなくたって、わたくしを、世界を守ってくれたことには違いなくて、わたくしはこの身が動く限りこの大地に捧げて、人々に新たな平和を与えなければならないと思ったのだ。
もう落ちこぼれの巫女じゃない。わたくしに必要なのは、顕現するか分からない才能でも、もう使い果たしてしまった魔力でもなく、国を統治する能力。
王国を治めていくときに、隣にいるのがあなただったらどんなに嬉しいことだろう。そう思っていたら、彼はいつかみたいにわたくしの前に膝をつき、わたくしの手を取り、指先に恭しく口付けて宣誓をしてくれた。リンクが今ここにいてくれること、わたくしのことを知っているあなたが、わたくしを認めてくれること、それだけで頑張れるのだと、告げたらどんな顔をするかしら。
いつかのときのために、わたしはそれを口にしたことはない。
その少し後のことだった。
黒い外套に身を包み、いかにも怪しげな格好をした男がわたくしの前に現れた。リンクが切り捨てようとしたが、素早い身のこなしで斬撃を避ける。だが、その外套の一部は切っ先にあたってしまったようで避けたそこから見えた顔に、わたくしは息を呑んだ。
わたくしがまだ巫女修行を本格的に始める前までずっと幽閉されていた、お兄様だった。わたくしの動揺にリンクは素早く気付いて、いつでも相手を仕留められる位置に油断無く立っていたのだけれど、わたくしの方がふらふらと彼に近づいてしまった。今思うと、無防備だったと思うが、まさか、百年前に幽閉されていたあの『お兄様』が目の前にいるなんて信じられなくて、彼がその足で、自分の意志で立っていることが奇跡のように思えて、駆け出して抱き着いてしまった。
細身の体はそれでも男性のものだったが、百年前、最後に会ったそのままの姿なのが不思議で仕方がなかった。あとからいろいろと考えると、食事も何もとらずに厄災を抑え続けられていたのは、お兄様たるシークとわたくしの間に不思議なつながりがあって、そこからの供給があったからだろうと確信できた。
今まで姿が全く変化しなかったという彼の髪や爪は伸び、日に焼けることも怪我をすることもなかった身体には傷がつく。それにいちいち驚くも、自分を大切にしようとしないシークに正直、苛立つところもあった。
『僕の存在は、姫様のためだけにあるものだから』
そんな言葉を聞いた時には、八倒してやろうかと思ったものだわ。
だけれど、よくよく聞いてみると、元居た組織に彼の特別な存在がいるという。頑なに話そうとせず、隠す理由を知りたくてリンクに探ってもらえば、彼の特別な存在というのは、わたくし達が次に制圧を試みようとしていた反乱組織の長だったから。
そこに百年も身を置いていたというのは一瞬いかがなものかと思ったけれど、あの頃、王家の者の方が彼にとって害であったので、正しい判断だったのかもしれない。王家後に連なるものだと明かされてしまえば、彼だってかくまった人間だって苦しい立場に追いやられただろうに、綱渡りのような行動だわ。
「わたくしのためだけに動くような人形は、いらないのよ」
百年前、道具を使って失敗したわたくし達。出来損ないの姫だからこそ、ガーディアンを動かして厄災を治めようとしてうまくいかなかった。今はもう、自分の意志で動く人間しかいらないの。実の妹としてもそう思う。自分の意志でしあわせをつかみ取ってほしいって。
「あなたの道具になれるのは、俺だけだというのは甘美な響きだ」
至高な存在を見るように、爛々と青い瞳を輝かせて、リンクはわたくしの手を取った。彼は従者のように膝をついて手を取るのがとても好きだ。取った右手の指先にまた唇と近付けて、接吻をするのかと思えば、そのままぎりっと小指を齧る。わたくしが痛みに顔を歪ませるのを見ながら、リンクはぺろりと、血を舐めとった。
「俺の全てはゼルダのものだけど、シークの全てをあなたのままにしておくのは不愉快だ」
「そうね」
この言葉を聞いて体が震えてしまう程、嬉しさがこみあげてきてしまうなんて――ああ、わたくし達の関係も、どこか、いびつだ。