月に恋する

01.色は匂へど

 大広間へ行くと、何やらマルフォイがポッターの物真似とやらをして、スリザリン席を沸かせているところだった。
 大げさにパントマイムをしている。見ていて、非常にばからしい。

「くっだらねえ。全然似てねぇっつーの」
「まあ、どうでもいいじゃないか。あんなの、相手する方がくだらないよ」
「そうだよ、コムギ。それよりも、新学期の時間割見た方が効率的じゃないかしら?」

 アーニーと、金髪で左右に三つ編みをしている少女ハンナ・アボットに促されて、配られたばかりの時間割の眺めた。

「あ、9時からマグル学か……新しい教科ねぇ」
「僕もマグル学だ。ハンナとスーザンは数占い学だっけ?」
「ええ、そうよ。ね、スーザン」
「うん」

 俺とアーニーはマグル学、俺らみたいなスリザリンに言わせるところ『純血』である人間にとって、マグルの生活は非常に不可思議で面白い。
 たしか、選択教科を決める前日だかなんだかに、俺とアーニーはマグルについて討論してたんだっけ。たしか、ジャスティンの冷静で正確な一言によって、簡単に終わりを迎えたんだけど。
 俺はそのジャスティンの方を向いて「お前は?」と訊ねた。たしか、ジャスティンはマグル出身だから今更マグル学を勉強する気はないって言ってた気がするんだが。

「魔法生物飼育学だよ。ザカリアスも一緒だ」
「別に誰と一緒だろうが構わないけど、どうしてもっていうならあんたと一緒に授業受けてあげてもいいよ」

 相変わらずツンツンしているな、ザキは。
 そう思って、俺はくすりと笑う。
 すると、それに気がついたザキことザカリアス・スミスがむっとした顔で俺を見る。

「なんだよ?」
「いや、べっつに?」

 その返答が気に喰わなかったのか、ザキは朝食をかっ込むと急いでその場から立ち去る。
「あ、おい待てよ」とジャスティンが慌てて追いかけている様子がなんだか面白い。
 まあ、ジャスティンも去る前に憮然とした顔で俺を見てから走っていった訳なんだけど。なんだよ、いつものことじゃねぇか。あきれるなよ。

「本当、コムギってザカリアスのことが好きだよな」
「だってあいつ、反応おもしれぇじゃん」

 けたけたと笑った俺に、ハンナは「趣味悪い」とつぶやいた。
 そんなの分かり切ってることだろ。

「それより、私達もそろそろ行かないと間に合わないわよ。ベクトル先生、厳しいって噂だし……」

 ハンナと同じ金髪、そして一本くくりの三つ編みの髪が特徴のスーザン・ボーンズの言葉に俺らは時計を見る。
 げ。結構ヤバい。
 さっきのザカリアスみたいに朝食をかっ込んでいる俺らのとなりで、スーザンは悠然とコーヒーを飲みながら時間割りを眺めていた。





 ◇     ◆     ◇





 マグル学は思ったほど退屈しなかったけれど(電子レンジという謎の機械を今日は見せてもらった!)、宿題が出るのは頂けない。
 初回だってことで、「興味があるマグルの道具」について書き出すというだけの簡単なものだとはいえ、俺らはマグルの道具なんて知らないっつーの!
 ジャスティンに聞いても良いけど、必須科目の授業終わった後は上手く聞く時間は無かったし、良く考えればジャスティンとはひとつも選択科目が被ってないんだよね。
 魔法生物学は俺も選択したけど、時間割が違うっていうか。
 とりあえず自分で探してみよう、と図書館へやってきた。
 え、アーニー? あいつは、一緒にレポートとかやると細かいしうるさいから、あんまりやりたくないんだよね。
 こつこつと勉強をやり続けられるって、信じらんねぇと思うけど、そんなことを口に出したら、また「ハッフルパフらしからぬ」って言われるしなあ。自覚してるっつーの。
 で。図書館へ足を踏み入れると、司書のマダム・ピンスと目が合った。
 じろり、とハゲタカが獲物を狙うかのように見られ、少し萎縮しているととりあえず害はないと判断されたのか、視線をそらされた。
 それでようやく安心をして、俺はそっと図書館内を見渡す。マグルについての本なんて意識して探したことねぇし、どこにあんのか分かんない……って、あ!

「ルーナじゃん」
「……………………コムギ

 標準装備のびっくりした顔はそのまんま、くすんだブロンドのルーナが自習席で静かに本を読んでいた。耳たぶには乾かした人参を吊るしたみたいなピアスをしている。
 近寄って、かがみながら声をかける。
 ていうか、名前が出てくるまでに、すっごい間があった気がするんだけど。
 覚えてなかったのかと少し不満に思ったら、それを読んだかのように「覚えてたけど、なんて呼ぼうか迷った」とぽつりと漏らす。
 ああ、そういえば、この子ちょっと変わってるんだった。
 その分、すっごく賢かったから、本当に興味ないのでなければ(まあ、その興味の無いという枠内に入ってんじゃないかと不安だったんだけどね)、俺の名前くらい覚えているはずだ。

「何読んでるんだ?」
「『幻の魔法生物・裏』だよ。コムギは?」
「今年から選択でマグル学取ったからさ、ちょっとマグルについての本でも探そうかと思って。宿題が出てるってのもあるけど」

 苦笑しながら告げると、ルーナは少し悩んだ後「あっち」と指を刺した。

「たぶん、マグルの本はあっちに固まってたと思う」
「おお、サンキュ」

 くしゃり、と頭をひと撫でして俺はルーナが教えてくれた方へ向かった。
 一度振り返ると、ルーナはびっくりしたような顔を更に驚かせて、頭に手を運んでいた。

(……そんなに驚くことでもないと思うんだけど)

 ああ、でも、レイブンクローは元々一匹狼に近い気質だし、べったりはしないのかもしれないな。
 それに、言っちゃなんだけど、ルーナは少々同級生の中でも浮いているみたいだし。
 グリフィンドールの、ウィーズリーの末娘とは仲がいいみたいだけど。
 あの二人が並んでいたら、髪色のコントラストがなかなか綺麗だよな、うん。

 関係無いことを考えながら、本棚に手を伸ばす。
 ルーナの言う通り、この辺一帯はマグル系の本を集めているらしくて、俺はほっとした。
 これだったら、探すのはラクそうだ。
 ちらり、ともう一度ルーナの方を見ると、どうしたことか既に帰ってしまっていた。

(……撫でられるの、そんなに嫌だったか?)

 嫌がっているというよりかは、戸惑っているといった感じの反応だったと思うんだけど。
 まあ、次に会ったときにでも聞いてみようか。そこまで嫌われているとは思わないし。なんせ、まだ2回しか接触をしてないからな。