02.XYZ
「で、天下のコムギ・サクライとあろう者が、すごすごと帰ってきたという訳かい?」
笑い転げながら、アーニーは俺に確認をする。
他の寮はどうだか知らないけどハッフルパフの談話室は比較的穏やかだから(グリフィンドールとかはうるさそうだよな。偏見だけど)、アーニーのその声に驚いて皆が一斉にこっちを向く。
居心地が悪いのは俺だ。
あーもう! こんなことなら、こいつに相談なんてしなきゃよかった。
「しっかしまあ、まさか彼女が相手とはね……。でも、レイブンクローの女子ってハッフルパフの男子と相性がいいんじゃないのかい?」
「アーニー、セドリックの例を指してるなら彼は例外だよ。だってハンサムだから、他の寮の女子からだって熱い視線を浴びてるし。ミス・クリアウォーターはグリフィンドールの監督生と付き合ってるし。あの、ウィーズリー家の」
アーニーの言葉を否定したのは、白い目で彼を見ていたジャスティンだ。ジャスティンは俺らの誰よりもセドリックと親しい。なんでも、一年のときのホグワーツ特急で同じコンパートメントだったとか。
なんでも、マグル出身で何も知らないジャスティンが不安そうに視線をさまよわせているのを、セドリックが放っておけなかったとか。セドリックらしいな。
「コムギだって悪くはないさ。でも、セドリックと比べたらね……」
「顔が良いとは俺だって思ってないよ、ジャスティン。それに、どんなに美形でもルーナには関係無いと思うぜー……って、別に俺は彼女とそういう関係になりたい訳じゃないぞ」
「誤摩化すなよ、コムギ。この親友の目を欺けると思ってか!」
12、3歳の男子なんてこんなものだ。実にくだらないことで盛り上がる。
ハンナとスーザンが呆れながら近寄ってきた。
「女の子の気を引きたいなら、贈り物でもすれば良いのよ。コムギ」
「ルーナ・ラブグッドだって例外じゃないと思うわ。……あの子が気に入る物を探すのは少々骨が折れるかもしれないけど」
ハンナの提案に、現実的な側面を付け足したスーザン。
確かに良い案ではあるし、スーザンの言うことも一理ある。
なんせ、ルーナは少しどころか大変変わり者だ。
どうしようか……。そう思っていると、また新しく声が聞こえる。この声はザカリアスだ。
「なら、ホグズミードで買えば良いんじゃないか? どうせ、来月までは忙しくて時間なんか作れっこないだろ。それまでに別のきっかけが出来たらそれはそれで良いし」
「でかした、ザキ!」
きっとザキの言う通り、新しい教科やらなんやらでゆっくり話す時間なんて作れないだろう。
それに、一ヶ月の猶予があればそれとなく彼女の好みだって理解できるだろう。
「それじゃあ、お誘いはロイヤーの出番ね。女の子は、誰だって非日常なことにドキッとするもの」
ハンナの台詞に、へぇと頷いた。
女子からの応援はありがたい……って、なんで俺はこうやって皆に恋愛相談っつーか、応援されなきゃいけないんだ!
「あ、僕はコムギが振られる方に銀貨3枚」
「えー。これは上手く行くでしょう? だって、コムギだもの」
「ジャスティン! スーザン!!」
賭けの対象にまでされてら。
思わず声を上げると、アーニーがくすくす笑って悪ノリする。
「じゃあ、僕も振られる方に。むしろ、振られろ!」
「アーニー! あなたまで!!」
ハンナが諌めるように声を上げた。
っていうか、あいつひでぇ。
声を上げようとしないザキの方を向くと、あいつは冷たい目で俺を見ていた。
え、俺は何も悪くねぇだろ!!?
◇ ◆ ◇
9月なんて、実にあっけなく過ぎていった。
ハリーたちとマルフォイは今まで通り確執があって、どうやら今度はヒッポグリフの件で揉めているらしい。
正直、またか。みたいな気分だ。
あいつら、毎年毎年、よく騒ぎを起こせるもんだよ。今んとこ、お互い大きな減点はされてないのか。
ま、どっちでも正直構わないけどな。
ハリー・ポッターがいる限り、グリフィンドールの優勝はどうせ変わらねぇんだ。グリフィンドールは贔屓って言われるのを嫌うのかもしれないけど、ダンブルドアのハリーに対する贔屓加減は異常だろ?
いやなに、グリフィンドール無双に文句付ける訳じゃないさ。どうせ、ハッフルパフは大きな加点なんてされないから、優勝争いにはもともと加われないんだしさ。あ、セドリックがクィディッチで頑張ってくれたらなあ。
どう見てもセドリックの実力は明らかなのに、なんでセドリックがキャプテンやって無いのかが分からない。
クィディッチといえば、マクゴナガルのクィディッチ狂は周知の事実だよな。
さっき廊下で、“親切にも”スネイプがマクゴナガルにスリザリンが何年間、クィディッチ杯を死守したのかを教えてあげてたぞ。
あのときの何とも言えない顔、面白かったなあ。
「おいコムギ、置いていくぞ」
考えていたら、ぼーっとしてしまったらしい。
友人達の声で我に返る。「悪い悪い」と言いながら、小走りであいつらのところにいく。
何か隠してるんじゃないだろうなと言わんばかりのフィルチの視線を受けながら、ホグズミードへ向かった。
「さて。コムギは彼女へのプレゼントを探さなきゃね」
ハンナがクスクスと笑いながら、提言する。
「私、先輩方に聞いたんだけどね、女の子が好むカフェがあるらしいの」
ホグズミード村の入り口で購入したらしいパンフレットを見せて、「これこれ」と指を指す。
わあ、素敵。と言っているスーザンはさすが女の子だなあ。
なんせ、ハンナが指差したその喫茶店『マダム・パディフットの店』は、めちゃくちゃピンクピンクしてて俺ら男にゃ入りにくい。
事実、アーニーやジャスティンは「うわあ……」と言った顔をしていた。もちろん、俺も例外ではない。
しかし、ザカリアスが顔をしかめていないのは珍しい。そう思ってあいつを見ると、言いにくそうにポツリとつぶやく。
「姉貴が、そういうの好きだっていってたからね。女子が好むってことは知ってる」
その言葉で、ああと納得した。
実はザキもこういった乙女趣味があるのかと一瞬疑ってしまったじゃないか。気持ち悪い。
いや、別にこういった趣味を否定する訳じゃないが、あいつがっていうのは問題じゃね?
「ラブグッドだったら、むしろゾンコだと思うな。いつも変な髪飾りとか付けてるじゃあないか」
「いや、ここは無難にハニーデュークスだろ。そんなに親しくないんだから、お菓子が一番だって」
アーニーやジャスティンがなんか言っているが、どうしようか。
「アー……初めてのホグズミードだし、とりあえず観光しないか?」
皆、賛成だというかのように首を勢い良く縦に振った。
……興奮し過ぎだろ、おいおい。