04.From A to B
実際、あの晩のルーナはめちゃくちゃ可愛かったと思うぜ。
わざわざ引き返してくれたロイヤーに感謝の気持ちでいっぱいだ。
ただ、アーニー達に問いつめられたりはしたけれども、言わなかった。
なんでかって、もったいないじゃないか。自慢するのも気分がいいし、そりゃ年頃の男子たる物そういった話題だって絶えず横行する。
だけどな、気になる少女の自分だけが知っている可愛い面って、すごく嬉しくないか? そう考えているうちに、自然とニヤニヤ笑っていたらしくザカリアスに、痛いものを見るような目で見られた。
なんか最近思うんだけど、ザキの奴、俺に対して対応がなんか冷たくないですか……。
そんなこんなで、まあルーナのこと以外は案外平穏な日々を過ごしたんだけど(一昨年は初めてで慌ただしかったし、去年はどうあってもこんな冷静では居られなかったけどね。ジャスティンが巻き込まれたあの忌々しい事件や、あのときの気持ちは一年経ったところで消えやしない)、今回ハロウィンにシリウス・ブラックがグリフィンドール寮へ押し入ろうとしたらしい話は、正直に言うと俺の中では他人事な訳である。
もちろん、ハンナがひっきりなしに「シリウス・ブラックは花の咲く灌木に変身できる」って言うのを除いて、だけど。ハンナはちょっとばかし繊細だから、ああいうショッキングな事件で冷静さを失っちゃうんだよな。
そりゃ、グリフィンドールの連中は、気の毒だとは思うよ。。だけど、父さんがこっそり漏らしたところによれば、最初から奴の目当てはハリーらしいし、それなら安全だろ?
一歩間違えれば死ぬようなことでも、ハリーだったらなんとかやってのけそうだ。ダンブルドアの加護もあることだしね。
事件という事件がハリーのことを愛しているかのように近寄ってくるけど、でもハリーは周りの保護やらなんやらみていると、世界中で一番安全なように錯覚してしまう。
赤子の頃でさえ、例のあの人を打ち破ったんだし。だから、俺らが去年勘違いしてしまったんだったけ。ハリーは闇の魔法使いだって。
悪かったとは思ってるさ。だけど、あの場合では、そう疑って仕方が無かったというのが俺の意見。君なら仲間が殺人未遂な目にあって、それで第一容疑者と素知らぬ顔で仲良く出来るか?
だけど、こんな自己本位な面を持ち合わせていることに、俺は自分で嫌悪感を覚える。おおらかで優しいハッフルパフになりきれていないんじゃないかと疑問に思う訳だ。同時に、俺がこの場に居ても良いのかと。
ま、思春期って奴だね。この年代だと、だいたいの葛藤はこの言葉で済ませられる。いい気持ちはしないけど、後から考えるとそう言うことなんだろうな。
ああ、やだやだ。
だいたい、俺がどんな人間だろうと、慈悲深いヘルガ・ハッフルパフだと噂だ、受け入れてくれるんだろう。
それに、そんなネガティブなことばっか気にしていられない、せっかくのクリスマス前なんだ。
ルーナからの好感度も考えなくてはいけないし。
クリスマスっていえば、やっぱりここはプレゼントだろう?
でも、気の利かない俺だ。女の子に何を送ったら良いのかなんて検討もつかないから、また相談をしてみる。
「……だからって、わざわざ私に相談されてもね」
談話室でたまたま見かけたハンナとスーザンに声を掛けるけれど、スーザンは難しそうにポツリとそう言った。
「そんなこと言わないでくれよ! 君たちが頼りなんだからな!」
そんな彼女達はそれぞれ自分達の金髪の三つ編み、ハンナは二つの、スーザンは一つ結びのそれに触れていた。
そこへひょっこりやって来たのはアーニーとジャスティン。その後ろからは、ザキの奴もやってきた。
「おいおい、コムギ。君はまだラブグッドへのプレゼントを決めていなかったのかい? ……まさか、僕らの分もまだだとか言わないでくれよ」
「アーニー!」
からかいを含んだアーニーの言葉を遮るのは、いつも正義感の強いハンナだ。心配しなくても、アーニーだって気心知れた俺以外にはこんなこと言わないだろうよ。
にしたって、まじでどうしよう……。
ルーナにとっては、俺にプレゼントを贈るなんて考えはないだろうし(なんせたまにちょっと話すくらいの仲っていうのが妥当な関係だからな。哀しいことに)、そうなったらあんまり負担にならない方が良い。
そんなちょうどいい物って、なんかあるか?
「ねぇ、ルーナ・ラブグッドって、いっつも物を隠されているような気がするの。そう思ってるの、わたしだけ?」
「そうだろうね。だって、あいつどっからどう見ても変人だし」
スーザンの疑問に、ザキはそうやって肯定する。
彼女の言うことは事実だし、ザキの言うようなことも周囲から言われているのだって知っている。だけど、仲間には彼女のことをそうやって言われたくない。
柄にも無く、カチンと来てしまって、訂正させようと口を開いたら先にジャスティンが諌めた。
「さすがに言い過ぎだよ、ザカリアス」
「……悪かった」
ザキは何故だかジャスティンには比較的弱いようで、素直におれに向かって謝罪を入れる。
謝るのは俺じゃなくてルーナになんだけどな。それでも、コイツが謝罪の言葉を口にするのは滅多に無いことで、彼に取ってはかなりの譲歩みたいなものだろうから、それ以上は言わなかった。
「それなら、羽ペンとかどうかしら。何本あっても邪魔にはならないし」
「ああ、僕の使ってるブランドは普通より少し値が張るんだけど……オプションで盗難防止とかの魔法も付けてもらえるよ」
スーザンの提案に、アーニーも考えを追加してくれた。こいつは名門出身の坊ちゃんだったっけ。いつも使っている羽ペン、貸してもらったことはあるけれど結構、羽根の触り心地とかも良かった気がする。
「そういえば、あそこのブランドは個性的な種類も扱ってたよ。……個性的なら、ラブグッドも気に入るんじゃないか」
先ほどので少し懲りたのがはっきりと分かる。変人とかそう言う言葉を個性的に置き換えてザカリアスがそう言うと、ジャスティンが苦笑しながら頷いて同意を示した。
「良い考えだ、それでいこう。アーニー、注文書とか持ってるか?」
「安心したまえ。すぐに取ってくるさ」
寝室の方へ向かったアーニーに「サンキュ」とお礼を言って、その場で待機。相談に乗ってくれた、ほかの四人にもお礼を言った。
帰ってきたアーニーに手渡されたパンフを見ながら、予想外の種類の多さに軽く悲鳴を上げる。
そこから数十分悩んだのは言うまでもない。
◇ ◆ ◇
クリスマス当日の朝。
重たい瞼を擦りながら、フラフラとプレゼントの山へと近づく。同室のアーニーはもう起きていたらしく、俺に気が付いてニッコリ微笑んだ。
「メリークリスマス、コムギ」
「ああ。メリークリスマス、アーニー」
儀礼的なクリスマスの挨拶を済ませ、プレゼントの山と格闘しようと向き直る。
隣ではアーニーもごそごそと包装を破っている。
ていうか、隣に誰かがいるのは良いものだな。俺のとこは、良い歳した父さん母さんがお熱いことで、「二人で過ごすから帰ってくるな」だもんなー……。
アーニーは去年も一昨年も家に帰ってたけど、どうやら俺を一人で放っておくのは忍びないってんで、今年はホグワーツに残ってくれたらしい。
「ウワ…ありがとう、コムギ! これ、ずっと欲しかったんだ!」
「あ……」
アーニーには確か……どんな大きさの本にも対応しているブックカバーを上げたんだっけ?
お礼を言われて小さく頷きながらも、目は捕らえた一点を離さない。
不審に思ったアーニーがひょいっと俺の方に向いた物だから、そっと小さな小包を拾い上げて、そろそろとその奇抜な包装紙を剥く。重さはそれほど感じない。予想以上の軽さだ。
「ああ、それ……もしかして、ラブグッドからかい?」
「……だと思うんだけど、俺も」
包装を取った中の小箱をそっと開く。すると、中から木で彫った梟の置物のようなものが現れて、それは自在に宙を飛んだ。
「うわっ」
ビックリして仰け反ると、アーニーはけらけらと笑った。
「さすがラブグッド、包装だけでなくアイデアが奇抜だ。しかも、それは君の極近くしか動かないみたいだ」
襲ってくる物でもないらしい、しげしげと見つめていると視線に気が付いたかのように木彫りの梟は俺の目の前で止まった。
よく見ると多層不格好だが、愛らしい。その上、木彫りかと思ったそれはどうやらコルクで出来ているようだ。箱が軽かった謎が解けた。
アーニーにそう告げると、彼は目を見張ったようだ。
「つまり、それは彼女が作ったのかい!? 手作り! しかも、こんな宙に舞う魔法まで掛けて。つまり、それは愛じゃないか……!」
「止めろ。ルーナにそんな気は無いだろ……っていうか、茶化すな照れる」
プレゼントを贈ってくれたというだけで十分に嬉しかったのに、図らずとも彼女の手作りを入手してしまった。
その事実が嬉しくて、思わずニヤける。手を顔へやって隠すけれど、頬が赤くなったのを見とがめたアーニーがニヤニヤと俺を見てくるものだから、恥ずかしくなって先ほどまで眠っていたベッドへダイブ。
「まあ、コムギはそこでしばらく喜びに浸っていれば良いさ。僕は手紙でも書いて、帰省中の皆に言いふらしてくるよ」
「止めろ!」
「やだね、裏切り者の女たらし。ラブグッド以外からの女性から貰ったプレゼントは全て廃棄したまえ」
「事実無根だろソレ! だいたいそんなにもらってねぇし、俺はお前のこと裏切ってねぇっつの!」
「ハンナには手ぇ出してねぇだろうが!」と、寝室を出て行ったアーニーに言いたかった。
しかし、ルーナからのプレゼントでテンションが上がってしまった今、談話室に出て行けば何を言うか分からない。
ここで興奮を抑えるためにベッドに腰掛けて、ぐるぐると俺の周りで飛んでいるコルクの梟を見つめていた。
やっべ、ニヤニヤがとまんない。