月に恋する

06.Epilogue

待ち合わせまで、きっかりあと五分だ。 この日のために新調したドレスローブを来て、俺は待ち合わせ場所へ待機している。 同じ寮だったら一緒に行けば良いという話だから、少し面倒だ。だけど、彼女を待つんだったらその時間も惜しくない。むしろ、かなりウキウキとしてしまう。 だから、結果的に他の寮でよかった。と思う。 アーニーはハンナと、ジャスティンはスーザンと一緒に行くみたいだし、ザカリアスはあんなツンツンしているけれどクィディッチの選手だってことで、そこそこ人気があるんだ。 もちろん、同じクィディッチの選手で、今回の三大魔法学校対抗試合《トライウィザードトーナメント》の主役であるセドリックとは比べるまでもない、些細な人気だけどね。 目を皿のようにして、待ち人を探していると、その特徴的なドレスが目に入った。 鮮やかなブルーを基調として、いろいろな装飾で飾られている。 布自体に模様も何も無いけれど、おそらくはかなり上等なんじゃないかな、あれは。 構成も至ってシンプル。それなのに、装飾が相変わらずのルーナ節で、思わず笑みが零れた。 「メリークリスマス、ルーナ。ドレスローブ、すごく似合ってるよ」 「メリークリスマス。ありがと、コムギもすごく格好良いよ」 照れた様子も無く、そんなことを言ってのけるのは相変わらずだ。 恥ずかしいのはこちらだというのに。 だけど、幸せなだと不意に思った。 さりげない動作で彼女の指に自分のそれを絡ませると、大広間へ向かう。 セドリックやハリー、それからフラーやクラムといった代表選手達のダンスが始まり、俺らも適当に踊るが性に合わない。 ルーナは楽しそうに個性的なダンスを披露してみせたけれど、俺がダンスは苦手だっていうのに気が付いたらしく、外に出ることを提案してくれた。 「ごめんな」と小さく謝ったが、本当に気にしていなさそうに構わないと言ってくれたから、多少気が収まった。 木の下、冷たい風を肌に感じながら、俺は自分がドレスローブの上に羽織っていた上着をそっと彼女の肩にかける。 「ありがとう」 ルーナのお礼に、気にするなと告げてから、そっと思い出す。       ◇     ◆     ◇ 「ルーナ、好きだ」 思わず零れたその言葉を撤回することは、不可能だった。 テンパって、よく覚えていないけれど、そのときは返事も聞かずにいつの間にか寮へ戻っていた。 いつの間に俺は姿現しをマスターしたんだろう。開口一番に、アーニーに告げた台詞はそれだった。 アーニーだけでなく、ジャスティン、ザキ、それからスーザンにまで馬鹿みたいに笑われて、俺はむっとしたのを覚えている。 だけど、それよりも言ってしまった後悔と、言ってやったという妙な達成感が心の中を支配していて、奴らに構っている場合じゃなかった。 ハンナだけは、目を吊り上げてアイツらを注意して、それから俺に向き直って一言「コムギのヘタレ!」これだけを言い放って、寝室へ帰ってしまった。 後日、つーか翌日。こそこそと行動していた俺のとこに、相変わらず何も変わった様子も無いルーナがやって来た。 そのときの絶望感ったら無いね。絶対フラれると思ったもんよ。 一人で行動してて本当に良かった。 あのときの俺の表情の変わり様と言ったら、ルーナが悲鳴の如き声を上げながら笑い転げてしまうくらいだった。ところで、その件もあとで聞いたら、照れ隠しだったらしいけど。 何も変わった様子は無いと思っていたあのときのルーナだけど、よくよく考えてみたら確かに顔の血色は妙に良かったよな。 そして、俺は彼女を抱きしめる、というただそれだけの行為を許可されるような間柄に昇格したってわけだ。 小さくて、すっぽりと腕の中に収まるだけじゃ飽き足らず、余裕すらある。その上に、なんでかやたらと柔らかい。 女の子って、こんなに柔らかいなんて、俺はあのときまで知らなかった。 何で出来ているのだろう、やっぱりお砂糖とかスパイスとか、もっと素敵な何かで出来ているのだろうかと本気で思ったあのときは、やっぱり舞い上がっていたのだろう。 なんという中毒性、なんという刺激。とんでもない麻薬だと思った。 そして、それはコカインやマリファナなんかよりも、もっとずっと危ないのかもしれない。きっと、それは間違っていない。 だって、一年経った今でさえ、俺は彼女から離れられないのだから。       ◇     ◆     ◇ 「これ、ヤドリギだ」 そんなルーナの言葉で、俺はハッと現実に呼び戻された。 彼女が指を指しているのは、現在俺らの頭上にある木々のことで、白い実が付いている。 「本当だ、」 「離れた方がいいよ。ナーグルだらけかもしれないから」 ナーグルってなんだ、とか思ったけれど、俺は口に出さない。 その代わりに、離れようとしている彼女を掴み、その場に留まらせる。 不思議そうな顔をしている彼女の耳元に、そろりと顔を近づけて囁いた。 「ヤドリギの下にいる男女がしなきゃいけないこと、何か知ってる?」 ああ、我ながら古典的な台詞だとか思いながらも、問う。 ふるふると横に首を振るルーナが、すごく可愛い。 真剣な目で俺を見ている彼女のぷっくりとしていて吸い付きたくなるような唇に、そっと自分のものを重ねた。 俺は目をつむっていたけれどそれでも、驚いている目を見開いている様子が、彼女に触れている箇所から伝わって来た。 拒否する様子は無い。それが、酷く幸福だった。 何秒経ったのか、何分経ったのか、時間的感覚は分からないけれど少しして、ルーナもそっと目を閉じたのを感じる。 (愛しい……) 自然とそんな想いがわき上がってきた。 ルーナは俺にとって、月の女神みたいなものだ。今まで、彼女に出会うまでは知らなかった感情をいとも簡単に呼び起こし、狂気じみた発想さえも引き出す。 だけどそれは、彼女がたまらなく可愛くて愛しいからだ! 俺はいつだって、何度だって、 きみする。