同居することになったとはいえ、私達はほとんど海の上で過ごすので実はあまり関係ないと思っていた。
だが、私の認識の甘さが露呈する結果となる。

というのも、このタイミングでスモーカー隊の出陣を禁止する要請が出たのだ。
上の人間と檻が合わないスモーカーはここのところ、しばらく不機嫌そうだし、私もこんなに長い日数間借りする事になるとは思っていなかったから、若干居心地が悪い。
そんなことを、出勤した先で会ったコビーくんとヘルメッポに零したら、なんとも言えない表情をされた。

「つーか、お前、あの准将と付き合ってんのか」

どうしてか、ヘルメッポはスモーカーのことが嫌いなようだ。
まあ、こいつは人間の好き嫌いが激しい……というか、嫌いな方が多いんだからあんまり気にしないけど。
いけすかない、だなんていつも誰にでも言っている。全く、どんな人に育てられたのかしら。親の顔が見てみたいわ。……顎が割れているのは、やっぱり遺伝なのかしら。

「さァ? そんな明確な関係じゃないのは確かだけど」
「お前さー……キャラ作ってたのは知ってたけど、そんなスレてたのかよ」

ヘルメッポが言うと、コビーくんも同意するように苦笑する。
まあ、私がコビーくんの前で性格を繕う理由もほとんど無くなったし、徐々に素が現れてくるのは仕方が無い事だと思う。
この子達は、私のこんな性格を軽蔑するかしら? でも、良い子達だからきっと受け入れてくれると思うのよね。

「……でもスモーカー准将、最近なにか上と揉めてませんか?」
「あー……」

情報に関しては実は結構通じているヘルメッポが何の話か分かったらしく、妙な声を漏らしながら私をチラリと見る。
え、何? 私の所為?
詳しく話すように眼力を飛ばすと、呆れたようにため息をついた。

「女を使った潜入任務だよ。そういうのに使える歳や外見、雰囲気で、高過ぎも低過ぎも無いそれなりの地位の女って言ったら、お前くらいしかいないからな。スモーカー准将のとこに要請がきて、握りつぶしてんだ。愛されてんな、お前」
「あの横暴准将が……たしかに、前にそんなこと言ってたっけか。それで上官と衝突して機嫌が悪いのか。地位が欲しいっていうんだから、私くらい売っちゃえば良いのに」
「……それ、准将には言わない方が良いですよ」

コビーくんは、遠慮がちに忠告する。寂しげに見えるのは、勘違いだろうか。
それに、コビーくんの言う事も一理ある。確かに、私自身も言い過ぎたかもしれない。

「うん、言わない」

そうすると、ほっとしたように息をつくコビーくん。
ヘルメッポもため息をつくけど、それはどちらかというとやっぱり呆れが含まれている。むっとして、口を開いたそのときに背後から声が聞こえた。

「おい、! ナニ油売ってんだ!! 休憩はとっくに終わってるぞ!」
「あ、スモーカー」
「なんだ、お前一人か。トロ女はどこだァ!? 、ちゃんと帰って仕事してろよ」
「はーい。すみませんー、スモーカー准将」

いつもなら彼は眉を寄せるだろうに本気で忙しいのか、私へちらりと視線を向けてそう言っただけで、たしぎさんを探しに行ってしまった。
ちくり、と痛んだ何かには気が付かない振りをして、考える。
マシカクさんのほうが知っているだろうに。私も、帰りがてら探してみようか。

(そんなこと、私の仕事じゃないのに。仕事とはいえ、スモーカーが探すということに複雑な気持ちを抱くなんて……)

頭を振って、私情を追い出した。公私混同、今更だけどあまりしないに越したことは無い。

「……な、なんか、荒れてますね。スモーカー准将」
「今日は、ヒナ大佐がなんとかって…あ、」
「え。ヒナ、帰って来てるの? って……それより、本気でなんかヤバいっぽいから、私帰るね。ありがと、二人とも」

ふわり、と微笑むとヘルメッポが真っ赤になって叫んだ。

「そんな純粋っぽい顔は詐欺だぞ、てめェ!」

私は知っているのだ。
ヘルメッポは一時期、こちらにガープ隊へ入隊した直後あたりに、私の完璧な猫かぶりに騙されていたということを。
あんなので純粋な子とか、ちょっとうっかりさんとか、そういう子が好きなんだよね。ヘルメッポってば。
こんなことを考えていたから、コビーくんの切なげな表情を私は見逃してしまったんだけど。











スモーカーがなんであんなに荒れていたかって、それは仕事が終わって帰宅してから知った。
なんでもしばらく、このマリンフォードに缶詰になることが決定したそうだ。
今までなら、こういう話も例の酒場で済ませていたのだが、私がここに移り住んでからはめっきり行っていない。
前は次の日も海上任務があったし、ああいう酒場がちょうど良かったんだけど、最近は特に少ないし。
それがほんの少し寂しくなって、感傷に浸る。

「まあ…ヒナから話を聞いて納得したけどな。火拳を捕らえたそうだ」
「火拳って、火拳のエース? 白ひげのとこの。彼もなかなか将来有望なイイオトコなのに。残念……」

ヒナから話を聞いたという話にちくりとして、思わず皮肉を混ぜて返してしまう。
ヒナとスモーカーの間に何も無いことなんて、私が一番知っている。
ああ、なんて可愛くない女なんだろう、私は。
嫉妬に狂うなんて、いつだって私はそれで恋情を滅ぼすのに。

「あァ? 俺の方が良い男だろ?」
「男の嫉妬は見苦しいわよ。それより、白猟も丸くなったものね…おとなしく上の命令に従うなんて。ヒナに何か言われた?」
「女の嫉妬は醜いけどな、。フン、俺の考えと上官の思惑がたまたま一致しただけだ。ヒナは関係ない。火拳と麦わらは何かしら関係がある。その火拳が処刑されるとなりゃ……来るぞ、アイツは」

(また、麦わらだ……)

どうしてアイツはいつもいつもいつも、私が想う人想う人、捕らえて離さないの?
女の嫉妬が見苦しいのは改めてスモーカーに言われなくたって、十分知っている。
だけど私は抑えられないのだから、仕方が無い。こんなにも醜いのは、私の心。それよりも、いつもいつも私の嫉妬の対象は、麦わらだってことに苦痛を感じた。
アルコール度数の高い酒をコップになみなみと注いで、それを一気に飲み干す。熱さに浮かされてクラクラする。

「妬いてんのか、?」

不意に引き寄せられて、耳元で囁かれると何を考えて良いのか分からなくなる。
理性と本能の間で揺れて、私はぼんやりとスモーカーの顔を見つめた。
彼だって、無駄にイイオトコでフェロモンが溢れているのだから、手に負えない。

「お前が嫉妬深い女なのは、とうの昔から知ってる。ヒナにでも麦わらにでも、好きなだけ妬けばいい」
「それなら、あなたは私のことを好きなだけ抱けばいいわよ」
「……後悔しても知らないぞ」
「今更ね」

艶めかしい肌の首筋にそっと口づけると、スモーカーはビクリと震える。
その場に押し倒されて、私は目を瞑った。
口付けられた私達の境界は曖昧となって、地平線に沈む太陽のように消えた。




椿

椿事、艶事。

 
(焼け焦げる程ではない、恋い焦がれる程度だ)




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