あれから、しばらく。スモーカー隊で頑張りつつ、前よりも若干溶け込めた気がする。
スモーカーとの関係はご無沙汰だし、彼も私の気持ちを汲んでくれている。
気を持たせるような素振りとか、どれだけ私が最低な行為をしていたかなんてわかっているけれど、やっぱり私の中の一番はコビーくんで、必要だと言われてすっかり舞い上がってしまったみたいだ。
スモーカーにはお礼も謝罪もしない。それをして、私の気持ちを明確にしてしまうことは、彼は望んでいないし、私だって出来る限り逃げたいもの。自分が最低だって、知っているから。
今日は任務がお休み。せっかくだからと、たしぎさんと一緒にお買い物に来ている。
本当にたしぎさんは可愛い子で、良い子で、素直で、私もこの子のことが大好きだ。スモーカーへの尊敬っぷりったらすごくて、彼に妬いちゃうくらい。
確かにスモーカーは良い奴だけれど、あいつにももったいないくらいに良い子だ。
ちょっとドジなところもあるけど、そこがまた可愛いんだ。本部で人気があるのもうなづける。ヒナといい、たしぎさんといい、海軍には女性が少ないのに、なんでスモーカーの周辺にはこんなにハイレベルな女性が集まっているのかしら。モテない部下に刺されるがいいさ!
……なんて、冗談は置いておいて、そのドジっ娘たしぎさんと、うっかりはぐれてしまった。
(さて、どうしようか……)
思ったけれど、こんな休日の人通りが多い中、一度はぐれたたしぎさんともう一度会うなんて、結構難しいのではないか。
ちょっと冷たいかもしれないけど、自分の買い物も済ませちゃおう。きっと、たしぎさんのことだから、眼鏡を無くして全然違う人に話しかけたりしているんだろうな。
しばらくしてから、あとで「ここでお茶しましょう」って言っていた話題のカフェテリアへいけば、会えるだろう。
だいたい頭の中でそれだけシミュレートしてから歩き出そうとしたそのとき、後ろから名前を呼ばれた。
「さん」
生で聞くのは久しぶり過ぎて、てっきり私の聞き間違いかと思ったら、振り向いた先にいたのはコビーくん。ヘルメッポと一緒にいるのかと思ったら、珍しく一人だった。
びっくりして、「どうしたの? こんなところで」と聞くと、「さんこそ」と向こうも驚いた様子で、だけれど嬉しそうに笑いながら言った。
「連れとはぐれちゃったの。コビーくんは?」
「僕も、ヘルメッポさんとはぐれちゃって……。あの、連れってスモーカー准将ですか?」
「惜しいなァ……その副官のたしぎさんだよ」
私の言葉に、コビーくんはあからさまにホッとした様子を見せた。
確かに、この間の電話といい、コビーくんはスモーカーのことが苦手みたいだけど、ここまでおおっぴらにしなくても。
「それで、どこかで待ち合わせでもしてるんですか?」
「ううん。行こうって言っていたカフェはあるんだけど、多分たしぎさんはまだ私とはぐれたことに気付いてないと思うんだよね……極度の近視みたいで。だから、ちょっと一人で買い物しようと思って。行くつもりなかったんだけど、ちょっと武器屋さんでも。ノースブルーの話題作が入荷されたらしいし」
そう言ったら、コビーくんはちょっと悩んだ後に「ご一緒させてもらってもいいですか?」と、おずおずと切り出した。
「別に構わないけど、ヘルメッポはいいの?」
「実は、僕たちも待ち合わせしてなくて……ヘルメッポさん、武器屋に行きたいと言っていたから、もしかしたら会えるかもしれないし」
「いいよ。それなら、一緒に行こう」
すると、嬉しそうに笑ってお礼を言うんだ。
本当に嬉しいのは私の方だっていうのに。どうして、この子はいちいち私の気持ちをもてあそぶのだろう。それも、無意識だから尚更タチが悪い。
武器屋について、私は銃のコーナーへ向かう。
基本的に、私は遠距離支援型の人間なので、飛び道具全般を使えるんだけど、やっぱり今の主流は火縄銃だ。
ノースブルーの話題作は、連射の数が増えたそうで装飾もごたごたある訳じゃなく使いやすそう。
それに、持ってみて分かったけど、どうやら女性向けらしい。重量はそれほどなく、非力な女性にも持ちやすい。
「うん……これ、気に入った! おじさーん、これ下さい」
私が呼びかけると、「お目が高いね、お嬢ちゃん」と心底嬉しそうに笑う。
お嬢ちゃんだなんて、この歳になって滅多に呼ばれる事は無いが武器屋の店主からすると、まだまだ若い小娘なんだろう。違和感は無い。
そして、そのおじさん曰く、このマリンフォードの海兵の間ではDr.ベガバンクの活躍やらを知っているためノースブルーのものは、どんなに性能が良くても『メイド・イン・グランドライン』では無いというだけで、見向きもしないという。
この銃を必要とするような女性がいない、というのもあるだろうけど。軍人は大半が男だ。
「本当に、さんも戦うんですね」
「そうだよ。コビーくんには、こういうとこ見せたこと無かったから、ガープ中将の秘書みたいなイメージもたれてても仕方ないかもしれないけどね」
「そ、そんな……。でも、任務から帰った時、さんに『おつかれさま』って言ってもらうのは、嬉しかったですね。だから、今は寂しいです」
本当、この子は普通の人なら口説き文句に受け取られそうな事も、さらりと言うんだから。
ちょっとだけ声が震えていたから、もしかしたら勇気を持って言ってくれているのかもしれないけど。それだったら、嬉しい。
「あの……こうやって会話するの、久しぶりですし、よかったらたしぎ少尉を待っている間、お話しませんか?」
「コビーくんは、いいの?」
聞くと、コビーくんは「おそらくもう帰っていると思います」なんて、苦笑いをする。
どんなつもりで、コビーくんは私を誘ったのか。たぶん、慕っていた先輩に久しぶりに会ったから、というだけなんだろうけど、それでも嬉しく思ってしまう私は末期だ。
あからさまにニヤニヤしないように気をつけて、私は控えめに微笑んだ。