They was an old woman 2
She had so many children, she didn't know what to do;
She gave them some broth without any bread;
Then whipped them all soundly and put them to bed.
「殺したのか」
複雑な表情をしているインパに連れられて、王の元へ報告をしに参ることになった。初めて眼前で拝むその姿に戸惑うが、それを外には出さないように気をつけつつ恭しく頭を下げる。目を合わせ、問われたことに肯定で返すと、ハイラル王は満足そうに笑みを浮かべた。それを視界の端に入れつつ、すぐに再び頭を下げた状態に戻る。
「そうか。ところでお前は、お前の本当の身元を知ってはおらぬのか」
「存じません」
「知らぬのなら、良い。そうだな、今は良い」
問われるかもしれないと思っていた、いっさいの動揺を外に漏らさぬように告げると、王は興が醒めたようにそう言って、下がるようにと命じた。
廊下に出ると、今までの緊張がほどけ、ホッと一安心したというのはわざわざ言う必要も無いだろう。
この件について、他の誰かから情報が入ってしまう前に、ゼルダに会いたい。自分で告げたいと思った。インパに、ゼルダとの面会は望めるかと問うと、「お嬢様からも、シークを召すようにと」という言われ、心の準備が整わないままゼルダの自室へと案内される。
入り口の所で、インパが見張ってはいるものの、ボクはゼルダにごくごく近いところで、プライベートに話をする機会を手に入れられて、先ほどとは比にならないほどホッとした。
「任務に出ていたそうですね、シーク」
用意された紅茶、それを口に運びながら幼いゼルダはボクに声を掛けた。立ったままだったボクは腰掛けるようにと勧められるがそんな訳にも行かず、ただふかふかの絨毯が引いてあるそこに膝をついた。
ゼルダの問いに、ボクがこくりと頷くことで肯定を示すと、彼女は囁くようにして次の問いを発した。
「あの子を、ころしたのですか」
そんな物騒な言葉、あなたには似合わない。そんな世界を知らなくていいんだ。そんな闇の世界はボクが全部引き受けるから。容姿が極似ているにも関わらず、自分とは違ってうつくしく輝いてる少女。その輝きを曇らせたくなくて、ボクは必死だった。
「誰にも言わないと、約束してもらえますか、ゼルダ」
ボクがそう言ったらゼルダは真剣な表情で頷き、入り口の所にいるインパを見た。インパは外に出ることは無かったけれど、ゼルダと同じように頷いて、ボクから視線を外し、その場に立ったまま残った。
存在を気にするなということなのだろう。ゼルダはすこし頬を膨らませたが、ボクは最初から彼女と二人きりになることなんて期待しちゃいない。人を殺せるように育てた人間を、誰がこの国で最も高貴なひとりと密室で二人きりにさせるものか。
心の中でそう思ったことなど、彼女は一生知りはしないのだろう。それでいい。今、彼女が知る必要があるのは、知って欲しいのはこのことだ。ゼルダに向き直り、真摯に目を向け、言う。
『ボクは、彼女を殺してはいません』
口の中だけで、声にはしないように。ボクはインパに背を向けているから、彼女がボクの言葉を聞き取ることは出来やしないだろう。ゼルダは酷く驚いた表情で、口を覆った。見開かれた、ボクらとは違う青い瞳。どういうことなのかを尋ねたそうにしている彼女に、ボクは懐から手紙を取り出した。その時、インパが警戒をしてボクに視線を走らせたけれど、何も言わない。
ゼルダはそれを両手で受け取って、そっと開いた。そこにはボクが「死にたくない」と言ったあとの顛末を書き記してある。老人がカカリコ村で彼女を住まわすこと。王の血筋としての少女は、「王族としてのボク」と同じように死んだということ。ボクが、本当は殿下のこどもで、彼女とは双子の関係だということ。
彼女はさっと目を通して、読み終わった段階でボクを見た。
「私は、本当は聞かされていました。あなたが、私の親戚だということを。彼女が、あなたの妹にあたるということを」
「……」
「父が零したことがあったのです。死産になったはずのこどもは、実は生きていると。あの女はそれを知らないと」
ゼルダは立ち上がったかと思えば、膝をついているボクをそっと抱きしめた。人肌のあたたかさを初めて知り、動揺する。身動きができなくて、身体を緊張させたまま固まってしまった。抱きしめられるというのは、こんなにもあたたかいものなのか。ぬくもりに、なにかがこみ上げて来るのを感じる。そんなときに、ぽろりと肩に零れる熱いもの。ゼルダが嗚咽を堪えながら、震えるような慣れない手でボクの頭を撫でた。
「ずっとこうしたかった、シーク。大切な弟」
実の弟ではないと分かっていても、その言葉が心底嬉しかった。彼女は、いつだってボクを家族だと認めてくれていたのだ。ボクが知らなかっただけで。ボクが、この高貴な少女の身内になれるとは思わなかっただけで。ボクが、欲しいと願っていた家族は、本当に身近な所にあったのだ。
今も、彼女の隣に立てるとは思っていない。今回は手を汚さなかったにしろ、今後その機会はいくらでも回ってくる。ボクは、今度こそ命を奪うだろう。ボクが生き残るために、ボクを弟と呼んでくれるこの少女を守るために。
「シーカー族として、苦しいこともあるでしょう。だけど、生きて、生きて欲しかった」
ここでこの言葉をぶつけられるのが、不思議でならなかった。だって、今、ボクは彼女のために命を捨てても構わないと、そう思ったのだから。彼女を守るためならば、こんなボクを慈しんでくれる彼女の為に、ボクは死んでも構わないと思ったのだから。
けれど、それを口にはしない。彼女が悲しむ顔は見たくない。
ボクをこうやって取り立ててくれる、その事実で、もう一生を生きたような気分になったのだ。たかが、従僕に過ぎないボクのために、ペンダントを与えてくれるほどーーそれで、あのシーカー族のペンダントを思い出した。つい先日、ボクが一人で任務をすることを認められた時に、ゼルダが与えてくれたあの二連のペンダントを。その片割れを涙型のロケットの方を、もう今は王族ではない少女にあげたことを。
インパには届かないように、小さな声で告げると、ゼルダは目を瞬いた。そしてにっこりと微笑んだ。
「構いませんよ、あなたがそう判断したのなら」